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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(行ツ)177号 判決

広島県呉市公園通四丁目一番地

上告人

呉税務署長

岡野進

右指定代理人

柳川俊一

小川英明

片山博仁

山口三夫

寺島健

麻田正勝

原伸太郎

森盈利

平田稔

広島県呉市三条二丁目七番一号

被上告人

株式会社 東和製作所

右代表者代表取締役

山下カツミ

右訴訟代理人弁護士

元村和安

右当事者間の広島高等裁判所昭和五三年(行コ)第四号物品税決定処分等取費請求事件について、同裁判所が昭和五六年七月一五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人柳川俊一、同小川英明、同片山博仁、同山口三夫、同寺島健、同麻田正勝、同原伸太郎、同森盈利、同平田稔の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができないものではなく、その過程に所論の違法はない。また、右の事実関係のもとにおいて被上告人がした本件ぱちんこ機の加工行為を物品税法三条二項にいう製造に当らないとした原審の判断も、結局正当として是認することができる。

論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本山亨 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 中村治朗 裁判官 谷口正孝)

(昭和五六年(行ツ)第一七七号 上告人 呉税務署長)

上告代理人柳川俊一、同小川英明、同片山博仁、同山口三夫、同寺島健、同麻田正勝、同原伸太郎、同森盈利、同平田稔の上告理由

原判決には、物品税法三条二項の解釈適用を誤つた違法があり、右の違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一 原判決が掲げる三つの基準の不当性について

1 原判決は、物品税法三条二項にいう「製造」の意義について、「一般概念に従い、材料または原料に物理的、化学的変化を与え、若しくは操作を加えて新たな物品を造り出す行為をいうものと解され、従つて、本件ぱちんこ機のように中古の機械を加工することが「製造」といい得るためには、加工後の機械が新たな機械であり、加工前と加工後の機械に同一性がない(加工後の機械に対する関係で加工前のそれは実質的に材料としての意味しか有しない)ことが必要である」とした上、「機械が加工によつて機械としての同一性を失う場合としては、(1)旧と全く別種の機能を有する機械が造られた場合、(2)機械としての機能を全く失つてスクラツプ化した加工前の機械から正常な機能を有する機械が造られた場合、(3)機械を構成する素材の大部分又は主要部分がとり替えられた場合等が考えられる。」とし(原判決三丁裏二行目ないし四丁表二行目)、結局本件は右の(1)ないし(3)のいずれにも該当せず、他に本件加工がぱちんこ機の同一性を失わしめる根拠についての主張立証はないから「製造」にあたらない旨判示しているのである(原判決八丁表一行目ないし四行目)。

2 原判決の右判示は、「製造」概念の定義として、まず前段部分で総括的定義をし、後段部分でその具体化・細目化を図つたものと解される。

しかし、前段部分は正当であるが、後段判示の(1)ないし(3)の基準は、前段定義の一部についての領示としてはともかく、これらのいずれかに当たらなければ「製造」に当たらないとする限定基準を示したことには到底なりえない内容のものである。

3 中古の機械を加工することが物品税法にいう「製造」に当たるかどうか、すなわち、機械が加工によつて機械としての同一性を失うかどうかは、物品税の本質との関連においては握すべきものである。したがつて、同法の規定が人の経済的行為を対象とし、経済的価値の発生、移転等を要件事実としてこれに一定の法律効果を与えようとするものである以上、右「製造」の解釈に当たつては、第一審判決(九丁表二行目から一一行目)も説示するとおり、中古機が加工によりその一体性を失うに至つたか否かという物理的要因とともに、加工により別個の新たな価値物を創造したといえる程度に著しい価値の増加があつたか否かという経済的要因をも総合勘案し、社会通念に従つて判断すべきであるといわなければならない(大阪地裁昭和四五年五月一二日判決・行政事件裁判例集二一巻五号七九九ページ)(この点に関し、「経済的に極めて低価値となつた中古ぱちんこ機が、加工により飛躍的な価値の増大を来した場合には、前記(2)の場合に準じて、同一性を失つたものとし、これを「製造」と解することも、理論上はあながち不当であるとはいえまい。」としながら、証人真田節彦の証言を排斥して、本件加工による中古ぱちんこ機の価値の飛躍的増大は認められないとした原判決の不当なことについては後にふれることとする。)。

しかるに、原判決が前記の(1)ないし(3)に掲記するところは、いわば加工の物理的側面のみをことさら強調し、加工による価値の増大という経済的側面を不当に軽視したものであつて、物品税法の所期する機械の「製造」概念を網羅し得るものではない。したがつて、同一性を失つたと認められる場合というのは、右の(1)ないし(3)のいずれかに当てはまる場合に限られるというものではないのであるから、右の三基準は、非同一性の判断をするに当たつての合理性ある基準とは到底なし得るものではないのである。

4 原判決はもともと非同一性判断の基準たり得ないものを基準たり得るものとして、本件ぱちんこ機をこれに当てはめ、そのいずれの基準の要件にも当てはまらないとした上、他に格別の判断を加えないままに本件加工を「製造」には当たらない旨判示したものであつて、原判決には、物品税法三条二項の解釈・適用を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。

二 原判決判示の前記前段の定義によつても、本件加工が「製造」に当たることについて

1 原判決は、第一審判決が認定した事実のうち、大部分については、そのとおり認定してこれを引用し、一部についてのみこれを否定して独自の判断を示しているのであるが、その後者の点の不当なことは後述するとして、前者すなわち、原判決がそのまま引用している第一審判決認定の事実を原判決判示の前段の定義に当てはめて判断したとしても、以下に述べるように、本件中古ぱちんこ機の加工が物品税法にいう「製造」に該当することは明らかである。

2 すなわち、原判決は、次のような第一審判決の認定を引用している。

「……二そこで、原告(被上告人 上告人注)の中古ぱちんこ機に対する加工行為が、物品税法三条二項の課税物品の「製造」に該当するか否かを検討する。≪証拠略≫によれば、原告は、前記期間中ぱちんこ店株式会社ローズ(以下ローズという)から、専属的に、二、三か月に一度の割合で、同店が営業の用に供しているぱちんこ機のうち、その約半数にあたる二〇〇台ないし二三〇台程度のぱちんこ機を無料で引き取り、これを解体して後記加工を施したうえ、再び組立ててローズに移出していたこと、右ぱちんこ機の製造は大きく分けて、外枠、内枠、表側台板(表ベニヤともいう)、裏側台板(裏ベニヤともいう)の四つの基本的部分に分かれており、外枠は単なる木の枠であるが、内枠には百皿、下皿、前飾り、ハンドル等の部品が取り付けられ、表側台板には、表面にセル(セルロイド板)が張られ、その上に表釘、風車、役物、チヤツカー等の表部品が取り付けられ、裏側台板にはタンク、タンクレール、鈴筒等の裏部品が取り付けられていること、ローズが営業の用に供しているぱちんこ機は、大同式等の通常のぱちんこ機においては一枚の内側台板の裏表に各装着されている部品を、裏側台板と表側台板の二枚にそれぞれ装着させて組合せ一体としたものであり、原告が中古ぱちんこ機に対して施す加工の大要は、ローズから同店が営業の用に供していた中古ぱちんこ機を引き取ると、まず前記四つの部分に解体し、外枠は洗浄するのみであるが内枠は、装着部品をすべて取りはずして、使用可能なものは洗浄して各部品ごとに整理保管し、表側台板については、役物、チヤツカー等のうち再使用可能なものを一部取りはずして部品の種類別に保管していた後は、装着された古い表釘、レール等の表部品は廃棄し一旦外枠、内枠、裏側台板をそれぞれ別々に積上げ整理していたこと、次に組立の順序としては、表側台板については常に別途業者から購入した新品を用いこととし、これに表セルを貼り、表セルにゲージ機で釘穴等の印をつけ、表釘、レール、風車等は別途購入した新しい部品を用い、その他の表部品は保管しておいた中古部品を用いるのを原則として不足分は新品をもつて補充し、次に内枠については古い内枠に洗浄ないし研磨して保管中の部品を適宜とり出して装置し、裏側台板については、裏部品のうち不良なものを新品と取り替えたうえ、再び四つの部分を組み合わせて一個のぱちんこ機を完成させていたが、表側台板、内枠に装置される中古部品は必らずしも元通り組合せたものではなく、またすべて中古品を用いていた内枠、外枠、裏側台板も必らずしも元通り組合せたものではなく、適宜装着ないし組合わされていたこと、≪中略≫以上の事実が認められる。」(原判決三丁表八行目ないし一二行目、第一審判決五丁裏一一行目ないし八丁裏一〇行目)というのである。

3 右認定事実によれば、本件加工行為は、加工の対象物である中古ぱちんこ機をまず四つの基本的部分に解体し、更に表部品及び内枠に装着された部分はいずれも取りはずして各個の部品に還元するなど、ぱちんこ機としての一体性を一たん喪失せしめた上、表側台板は常に新しいものを用い、その他の部品については、各部品ごとに整理保管中の再使用可能な中古部品を取捨選択して寄せ集め、これに新しい部品を補充し、これらを組み合わせてぱちんこ機を作り出すものである。これは、原判決が掲げる中古機械の加工による「製造」の総括的定義すなわち「加工後の機械が新たな機械であり加工前と加工後の機械に同一性がない(加工後の機械に対する関係で加工前のそれは実質的に材料としての意味しか有しない)」にそのまま当てはまる事実であり、右定義に照らしても本件加工前後のぱちんこ機はもはや物理的同一性そのものを失つていることは明らかであるといわなければならない(第一審判決九丁裏一行目ないし一〇丁目三行目、東京高裁昭和三七年(う)第四八八五号、同四〇年三月二五日判決・下級裁判所刑事裁判例集七巻二八三ページ参照)。

4 しかるに原判決は、右の点に直接言及することなく、前記の誤つた三基準へのあてはめによつて本件加工後のぱちんこ機が「製造」に当たらないとし、僅かに「被控訴人は、本件ぱちんこ機の加工にあたり、機械が解体、再組立された点を重視してこれを「製造」であると主張するもののようであるが、機械の修理において、これを解体(従つて当然に再組立)する必要のあることは、時計の修理を例にあげるまでもなく、多々見られるところであり、何ら異とするに足りない。また、同時に多数の同種ぱちんこ機が加工される場合、その再組立にあたつて、或機械の部品が他の機械にいれ替つて装置されたとしても、そのことは通常、加工前の機械の同一性を判定する上において、特別の意味を有しない。」として上告人の主張を論難しているに過ぎない。しかしながら、そもそも、本件加工行為と、時計の修理の場合のように故障部分の部品を取り換える等の修理の手段として分解・組立てがなされるにすぎないもの、換言すれば、加工前のものを従前どおり復元する意図のもとに、若干の部品が交換されるにすぎないものとでは、加工後の機械に対する関係で加工前のそれが実質的に材料としての意味しか有しないか否かの点でその性質を全く異にするものであつて、およて比較の対象にはなり得ないのである。

5 以上のとおり、原判決が認定した事実を原判決の掲記する製造概念の前段定義に当てはめても、本件加工前後のぱちんこ機は物理的同一性そのものを失つていることは明らかであり、加工による価値の増大という経済的要因を考慮するまでもなく物品税法にいう「製造」に該当するものというべきである。しかるに、この点について、前記の不適切な時計修理との比較以外に何ら言及することなくこれを「製造」に当たらないとした原判決には、理由不備又は理由そごの違法があり、ひいて判決に影響を及ぼすことの明らかな物品税法三条二項の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならない。

三 原判決の基準(3)についての判断の誤りについて

1 原判決は、表側台板及びその装着部分の取替えが、機械が同一性を失う場合として原判決が例示する前記(3)の「機械を構成する素材の大部分又は主要部分がとり替えられた場合」に当たるかどうかについて、次のように認定した上これを否定し、「製造」には当らないとしている。

2 まず、「素材の大部分がとり替えられた場合に当たるかどうか」について、原判決は、「日本遊技機工業組合に対する調査嘱託の結果によれば、一般的に、その部品代は、これにヤクモノ代を全部加えても、ぱちんこ機の全資材価格に対する割合は、昭和四六年では約二七パーセント、昭和四八年ではそれ以下であることが認められ、また成立に争いない乙第四号証によれば、本件ぱちんこ機の加工において投与された新品部品(表側台板部分以外の部品を含む)の価額は、一台当り平均、昭和四六年一二月の分では二、〇〇〇円、昭和四七年中の分では、最高一、七九六円から最低一、三六七円まで、昭和四八年中の分では最高二、七一五円から最低一、七〇五円までであり、機械によりこれに若干の中古部品の投与が加えられたことが認められるが一台当りの資材価格(前記調査嘱託の結果により窺うことができる)からみて、到底素材の大部分がとり替えられた場合に該当するものということはできない」旨判示している(原判決五丁表八行目ないし同裏九行目)。すなわち、原判決は、新品機械の全資材価格と中古機械の加工において取り替えられた部品代とを対比しているのである。

しかし、中古機械の加工において取り替えられた部品がその素材全体との比較上大部分かどうかを考える場合には、取り替えられた部品代と新品機械の全資材価格とを比較すべきものではなく、加工された中古機械における取替部品代の、その中古機械における全資材価格に占める割合を考慮するのが相当であるというべきである。したがつて、取り替えられた部品代と新品ぱちんこ機の全資材価格のみを比較している原判決は、その基本的態度において誤りがあるといわなければならない。

そこで、本件中古ぱちんこ機の加工において取り替えられた部品代が全資材価格に占める割合を検討してみることとする。原判決が採用する前記調査嘱託の結果によれば、新品ぱちんこ機販売価格昭和四六年一万四、五〇〇円、同四八年一万九、〇〇〇円に対する資材価格昭和四六年七、二七五円、同四八年一万〇、二四九円の比率は昭和四六年約五〇パーセント、同四八年約四五パーセントであるが、この比率を前記調査嘱託の結果によつて認められる中古機改造新台販売価格昭和四六年五、〇〇〇円ないし六、五〇〇円、同四八年六、〇〇〇円ないし八、〇〇〇円に適用すると、右中古機改造新台の全資材価格は昭和四六年約二、五〇〇円ないし三、二五〇円、同四八年三、二四〇円ないし四、三二〇円となる。そして、同調査嘱託の結果によつて認められる前記取替部品代(ヤクモノ代を含む)昭和四六年一、九八八・七〇円、同四八年二、八三八・五〇円の右全資材価格に対する割合は、昭和四六年約七九・五パーセントないし六一・二パーセント、昭和四八年約八七・六パーセントないし六五・七パーセントとなる。

更に本件改造ぱちんこ機の移出価格が昭和四六年六、五〇七円、同四八年六、二二三円であることについては当事者間に争いがなく(原判決の引用する第一審判決別表(二))、この価格と原判決認定の取替部品代昭和四六年一二月二、〇〇〇円、同四八年二、七一五円ないし一、七〇五円を用いて、右の計算方法によつて計算すると、本件取替部品代がその改造機械の全資材価格に対する割合は、昭和四六年一二月六一・五パーセント、同四八年八〇・七パーセントとなる。

そうすると、これによつて取り替えられた部品が素材の「大部分」に当たるといえるか否かはともかくとして、少なくとも、本件加工によつて、中古ぱちんこ機の素材のうちの経済的価値の点で相当多くの部分が取り替えられていることは明らかである。原判決は、加工によつて取り替えられた部品の全資材価格に対する割合をみるについて、このように中古ぱちんこ機の資材価格をもつてすべきであるのに、新品のぱちんこ機の資材価格とを比較対照した結果、取り替えられた部品の価格割合を不当に低く評価する結果となつた誤りを犯しているのである。

3 次に、「素材の主要部分がとり替えられた場合に当たるかどうか」について、原判決は、本件加工の中心である表側台板部分がぱちんこ機の主要部分といえるかどうかという観点から、「ぱちんこ機の主要部分がどの部分かということは一義的に明確ではないが、ぱちんこ機も一つの機械である以上、機械としての機能の主たる部分を受け持つ裏側台板部分を主要部分とする考え方は、一応成立し得るかも知れない。しかし、表側台板部分は、最も人目につき易い部分であり、客寄せの外観上無視できない面のあることは否定されないとしても、それだけで同部分をぱちんこ機の主要部分とすることは疑問である。乙第一一号証(裁決書)は、機能面では裏側台板部分が主要部分であるが、商品価値又は使用価値からみると表側台板部分が主要部分であるとするが、右見解の後段については、その趣旨自体あいまいであり、格別根拠ある立論とは解されないので、俄かに賛同し難い。」旨判示して(原判決六丁表二行目ないし六丁裏一行目)、「ぱちんこ機としての機能面では裏側台板が一応一番重要な部分といえるが、商品価値ないし使用価値の面では表部品を装着した表側台板が最重要部分を構成している」とした第一審判決の認定部分を排斥し、表側台板部分は、ぱちんこ機の主要部分とはいえず、したがつて、素材の主要部分が取り替えられた場合には当たらないとしているのである。

しかし、この場合、少なくとも、対象物品の性状、機能、用途等に対し重要な特性を与える部分は主要部分であると解すべさであつて、そのようなものである限り、主要部分は単に一種類に限定される理由はないのである(横浜地裁昭和五四年九月一九日判決・訟務月報二六巻一号一四二ページ以下=舶用エンジンを供給して大型モーターボートの製造を委託した販売業者が物品税法七条一項のいわゆるみなし製造に当たるされた事例参照)。これを本件についてみると、本件ぱちんこ機が単なる家庭用ないしは子供用の玩具としてではなく、ぱちんこ店において遊技客用に使用される遊技機であることを考慮すれば、ぱちんこ機を構成する部分のうちで遊技の興味を左右する最も重要な機能を有する部分は、表側台板部分であり、その良否は、直ちに遊技客の利用の減少、ぱちんこ店側の収入減につながり、ぱちんこ機としての死命を制するといつても過言ではない。そうすると、表側台板部分は、ぱちんこ機を構成する部分のうちで、機能面、商品価値又は使用価値等すべての面において最重要部分であるかどうかはともかくとして、少なくとも、ぱちんこ機を構成する部分のうちで、商品価値ないしは使用価値の面で極めて重要な部分を占めていることは明らかであり、その意味においてぱちんこ機の主要部分であるというべきである。したがつて、「表側台板部分をぱちんこ機の主要部分とすることは疑問である」とした原判決の判断には明らかな誤りがあり、右判断の誤りがひいては判決に影響を及ぼすことの物品税法三条二項の解釈適用の誤りを導いているのである。

四 原判決の本件加工による価値の飛躍的増大はないとした判断の誤りについて

1 原判決は、本件中古ぱちんこ機の加工による価値の増大の点について、前述のとおり「経済的に極めて低価値となつた中古ぱちんこ機が、加工により飛躍的な価値の増大を来した場合には、前記(2)の場合に準じて、同一性を失つたものとし、これを「製造」と解することも、理論上はあながち不当であるとはいえまい。」(原判決六丁裏七行目ないし一〇行目)としながら、一審証人真田節彦の「本件ぱちんこ機は、いわゆる二落ち(再下取品)以下の機械で、その価格は三〇〇円ないし五〇〇円程度であるが、加工後ローズへの移出価格は五、〇〇〇円ないし七、〇〇〇円程度である。」旨の証言等をもとに、「(本件)加工行為により、中古ぱちんこ機はその価値を著しく増大させ、新品のぱちんこ機と遜色がないものとしてローズの営業の用に供されていることも勘案すれば、原告の中古ぱちんこ機に対する加工行為は、社会通念上既存の価値の修復の限度を越えて、別個の新たな価値物を創造するものというべきである」(第一審判決一〇丁表三行目ないし八行目)と認定したのを、右真田証言はたやすくこれを採用し難いとして第一審判決の右認定部分を排斥し、価値の著しい増加はなく、したがつて、「製造」には当たらないとした。

原判決が右真田証言を採用し難いもの、として排斥した理由は、「加工による価値の変化についての考え方は、基本的には、例えば五の価値のある物件に加工費(加工賃を含む)五を加えられた物件の価値は一〇であり、加工費五を加えられて一〇の価値ある物件が生成されたとすれば、もとの物件の価値は五であるべき筈である(加工にあたり特別な創意工夫がなされた場合は例外であるが、本件はかような場合ではない。)。もつとも、単なる加工のみではなく、そこに取引が介在すると、市場の関係から現実の取引価格は右の原則どおりにはならないであろうが、少くとも「製造」の要件となる非同一性を判定するための価値の比較に関する限り、右の基本的な考え方に立脚するのが正当であり、限られた市場における取引価格をもつて直ちに客観点な価値であるとすることは許されないものと解する。そして右のような考え方に立つても、極めて低価値となつた中古機に数倍の加工費を投じれば、その価値が大きく変化するともいい得るが、ぱちんこ機の寿命(当審証人山下真揮人の証言によれば機械としての寿命は五年程度であると認められるが、その型式において流行ないし顧客の嗜好に支配されることの大きい遊技機械であるぱちんこ機の営業上の寿命は更に短い場合が多いと思われる。からみて、かような場合業者はむしろ新しい機械を求めるのが得策であり、前記のような加工がなされることは通常考えられない。」(原判決六丁裏一二行目から同七丁裏九行目)というのである。

2 しかし、右原判決の説くところは、加工による価値の飛躍的増大を無視し、証拠に基づかない独断と、商取引の実情、商品としてのぱちんこ機械の特性等に対する無知・無理解からくる臆測に基づく謬断であるといわなければならない。

たとえば、原判決は、五の価値ある物件に加工費(加工賃を含む)五を加えられた物件の価値は一〇であり、加工費五を加えられて一〇の価値ある物件が生成されたとすればもとの物件の価値は五であるとの論法により、前記調査嘱託の結果によつて認められる中古機の販売価格と取替部品代との差額の大きさからして、加工前の中古機の価格も高額とみられるから、本件加工前の中古機の三〇〇円ない五〇〇円という真田証言は採用し難く、本件加工により中古機の価値が著しく増大したとは認められないというもののようである。

しかし、そもそも中古機の加工が行われるのは、付加価値の飛躍的増大が期待されるからであり、加工によつて利益が得られるのでなければ本件のように大規模な中古ぱちんこ機の加工が行われるはずがないのである。少なくとも通常加工された製品の販売価格は原価を構成する素材価格と加工費のほかに利潤を加えて形成されるものであつて、原判決はこの点を看過しているか少なくともこれを不当に軽視しているといわなければならない。

実際、原判決が採用する前記調査嘱託の結果によれば、標準価格についてみると、昭和四六年販売価格を一万四、五〇〇円と製造原価(物品税を含む)一万三、一五五円の差額一、三四五円が利益であるとみることができ、昭和四八年一二月のそれは販売価格一万九、〇〇〇円と製造原価(物品税を含む)一万七、七九九円の差額一、二〇一が利益であるとみることができる。

もし、中古機の加工の場合にも加工者が右と同額程度の利益を得るものとすると、中古機改造新台販売価格から中古機表面台取替原価と右の利益を差し引いた額が中古機の加工後も使用される部品の価値であり、使用されない部品はスクラツプとしてほとんど無価値考えてよいから、右加工後も使用される部品の価格をもつて加工前の中古機の価格とほぼ同額と考えてさしつかえない道理である。そこで、前記調査嘱託の結果の数値をあてはめてこれを計算すると、中古機の価格は昭和四六年〇円(右の計算上はマイナスになる)ないし一、四六六・三円であり、同四八年〇円(同)ないし一、九六〇・五円となる。

また、前記標準価格における利益の販売価格に対する割合を計算すると昭和四六年約九・三パーセント、昭和四八年一二月約六・三パーセントとなるので、中古機の加工者が受ける利益も同率とすれば、その利益は、昭和四六年四六五円ないし六〇四・五円、昭和四八年三九八円ないし五〇四円となり、これによつて右と同様に加工前の中古機の価格を計算すると、昭和四六年八四六・三円ないし二、二〇六・八円、同四八年七八三・五円ないし二、六五七・五円となる。

そうすると、いずれにしても加工前の中古ぱちんこ機の価格はかなり低額であつて、加工によつてその商品価値が飛躍的に増大することは明白であるといわなければならない。

3 なお、前記真田証言のうち、本件加工後ローズへの移出価格は五、〇〇〇円ないし七、〇〇〇円程度であるとの部分は、当事者間に争いのない前記数額とほぼ同じであり、本件加工前の中古ぱちんこ機はいわゆる二落ち(再下取品)以下の機械で、その価格は三〇〇円ないし五〇〇円程度である旨の証言部分も、その額自体前記のとおり算出した一般的な中古ぱちんこ機の価格とそれ程かけ離れて大きな差異はなく、むしろ、次のようなぱちんこ機の商品としての性質からも十分首肯できるものである。すなわち、本件ぱちんこ機は、単なる家庭用ないしは子供用の玩具ではなく、ぱちんこ店において遊技客用に使用される遊技機であり、そのような遊技機として使用されてこそぱちんこ機として本来の商品価値が維持されるるものであるから、右のような遊技機として使用できなくなつたぱちんこ機の商品価値は著しく低下せざるを得ない。まして、それが本件のようにいわゆる二落ち(再下取品)以下の中古ぱちんこ機となれば、商品価値の低下はなお一層顕著であつて、スクラツプに近い価格で取引されるのである。

(注) 更に、真田証人は、昭和二七年に税務署職員として奉職して以来、その大部分を物品税等を含む間接税畑をその専門として歩んできたベテランで、被上告人に対する本件課税処分に当たつても、所轄税務署の統括調査官としてこれに関与し、本件中古ぱちんこ機の調査見分のほか、本件課税処分に当たつて必要な資料を収集するため、ぱちんこの本場といわれる名古屋に出張し、製造メーカーなどを回つて新品ぱちんこ機の価格、改造(加工後の中古)ぱちんこ機の価格、下取あるいは再下取(加工前の中古)ぱちんこ機の価格等についてつぶさに調査し、これらの調査結果を踏まえた上で、前記の趣旨の証言をするに至つたものであつて、右証言は十分に根拠のあるものである。

4 しかるに、前記のような論法をもつて右真田証言をたやすく排斥して、本件加工による価値の飛躍的増大はないとした原判決には、採証法則を誤つたか理由不備の違法があり、ひいては、物品税法三条二項の解釈適用を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

五 結論

以上のとおり、本件中古ぱちんこ機に対する被上告人の加工行為は、社会通念上既存の価値の修復の限度を超えて別個の新たな価値物を創造する行為であつて、物品税にいわゆる「製造」に該当することは明らかである。しかるに、これを「製造」に当たらないとした原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があり、これが判決に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、速やかに破棄されるべきである。

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